大判例

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高知地方裁判所 昭和27年(行)18号 判決

原告 大野新兵衛 外二名

被告 高知県

一、主  文

本件訴を却下する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告が昭和二十七年五月三十一日公布した高知県金属屑取扱業条例第十四条、第十五条は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求め、その請求の原因として、被告は金属屑に関する犯罪を予防するために金属屑取扱業者の遵守しなければならない事項を定める目的で昭和二十七年五月三十一日付で高知県金属屑取扱業条例を公布した。而してその第十四条に「業者が買受け若しくは交換し又は売却若しくは交換の委託を受けた金属屑については贓物又は遺失物であると疑うに足る相当の理由あるときは所轄警察署長は業者に対して三十日以内の期間を定めてその金属屑の保管を命ずることができる」第十五条には(立入り及び調査)「警察官又は警察員は必要があると認めるときは営業時間中において業者の営業所又は金属屑の保管場所に立入り金属屑及び帳簿を検査し関係者に質問することができる。」と規定している。日本国憲法第九十四条は地方公共団体は法律の範囲内で条例を制定することができると規定してあるけれども、一方右憲法第三十五条住居不可侵権に関する条項には何人もその住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状によりこれを行うと規定し、刑事訴訟法第一編第九章には押収及び捜索につき規定し同第百八十九条以下に捜査に関し詳細な定がある。然るに本件条例第十四条、第十五条は全く刑事訴訟法の規定を無視し権限を有する司法官憲の発する各別の令状なしに住居不可侵の基本的人権を侵すことを認めたものであつて、日本国憲法第三十五条に違反する条例であることは明白であり金属屑取扱業者として正しい取引をする者にとつては危険に耐えられないところである。原告大野は高知県金属商組合長であり、又本条例撤廃期成会の会長であり、原告島村及び原告唐岩はいずれも右組合の常務理事であつて、右業者全員の決議に基き本件条例の無効であることの確認を求めるため本訴請求に及んだと述べた。

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め、答弁として日本国憲法第七十六条が裁判所にその固有の権限として帰属させている司法権の作用は、具体的事実について訴訟手続を経て公権的な判断によつて適用せらるべき具体的な法を確定してこれを宣言することであると解すべきである。従つて裁判所の本来の権限は具体的事実と法規とを前提として、適用せられるべき具体的な法が何であるかを結論判断すべきもので、行政事務の争訟として裁判所本来の権限の対象となりうるには、具体的な権利又は法律関係の存否につき関係当事者間に争訟を必要とするものである。単に一般的な法令の効力や存否についての争そのものは裁判所の本来の権限の対象となるべきものではない。かような争についての公権的判断によつて関係当事者間の具体的な利害の対立や紛争の解決が期待せられる場合であつてもなおその裁決は裁判所本来の権限に属しない。裁判所法第三条が裁判所は法律上の争訟を裁判する権限を有する旨を定めているのは此の意味を明確にしたものという外はない。従つて一般法規たる県条例が法律又は憲法に違反することの確認を認める本訴は結局裁判所の権限に属しない事項につき裁判を認めるものであつて不適法な訴として却下さるべきものであると述べた。

三、理  由

わが国の現行の制度の下においては、特定の者の具体的な法律関係につき紛争の存する場合においてのみ裁判所にその判断を求めることができるのであり、裁判所はかような具体的な争訟事件を離れて抽象的に法律命令等の合憲性を判断する権限を有しない(最高裁判所昭和二七年(マ)第二三号昭和二十七年十月八日大法廷言渡判決参照)、原告等の本訴請求は請求の趣旨表示の高知県条例が結局日本憲法第三十五条に違反し無効であると主張しその確認を求めるというのであつて、現実且つ具体的に原告等が法律上の利益を侵害されたというのではない。従つてかゝる抽象的な単に法規の無効宣言を求める本訴は不適法であつてこれを却下する外はなく、訴訟費用につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 安芸修 細木歳男)

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